谷崎潤一郎
私は、谷崎潤一郎の作品については、読むのを躊躇していた。それは、耽美派と言われながらも、彼の小説がマゾヒズムの体を擁していると知っていたため、小中学生の私には読む気がしなかったのだ。
中学1年の時だったか、教室の本棚の片隅に「痴人の愛」が置かれていた。嫌だ嫌だと思いながらも、心の底では興味があったのだろう、ポンと置かれていたその小説を手に取って、病室に持って帰って読んでみた。
正直、驚いた。内容は、確かに、マゾヒズム、エロティシズムが全面に出ているものの、文章が非常に美しいため、変ないやらしさを感じさせない、主人公の女性ナオミの圧倒的な魅力、その強さと美しさ、そして彼女を崇拝する男性たち、一つの小説としては十二分に面白く、中学生の私でも一気に読んでしまうほどだった。
その後、「刺青」「春琴抄」「鍵」等、彼の作品を次々に読んでいった。ただ、「細雪」だけは、代表作の一つではあるものの、どうしてもなじめなかった。この作品なら、私は、太宰治の「斜陽」の方が好きだというのが正直な感想だ。
女性崇拝、美意識の高い谷崎潤一郎においては、「文章読本」や「陰翳礼讃」の随筆も有名であるが(ほかに川端康成、三島由紀夫等の文章読本もあり)、私としては、左記3人の作家の中では、谷崎潤一郎のものが一番読みやすく、参考になったのを憶えている。
食わず嫌いのままでいたら、一生読まなかったかもしれない彼の作品、やはり何事も手に取ってみないと、トライしてみないと、わからないものだ。